ESネクスト監査法人統括代表鈴木会計士との対談「脱ハンコ」と「デジタル監査」

ESネクスト監査法人統括代表鈴木会計士との対談

「脱ハンコ」と「デジタル監査」について

ESネクスト監査法人は、「次世代を担う経営者と共に社会のイノベーションをリードする」とのビジョンのもと、大手監査法人出身メンバーを主体にDX(Digital Transformation)による次世代「デジタル監査」を追求しており、当社が提案する企業文書のデジタル化と共通点が多くあります。

2020年10月、ESネクスト監査法人統括代表の鈴木真一郎氏を当社代表の横山公一が訪ね、「脱ハンコ」の潮流やすぐそこに来ている「デジタル監査」時代の監査のあり方について意見を交わしました。

談笑するペーパーロジック横山とESネクスト監査法人鈴木氏

paperlogicサービス導入のポイント

横山: このたびはpaperlogic電子契約を導入いただきましてありがとうございました。

鈴木: 横山さんとはEY新日本監査法人のデジタル化勉強会で、大変お世話になりました。同じ会計士がつくるデジタル化サービスには、会計士ならではの留意すべきポイントが満載されており、私自身が独立して監査法人を立ち上げたタイミングでお声掛けさせていただき、即座に導入を決めました。

横山: ありがとうございます。私もトーマツに在職していたころ、「紙とハンコ」、お客様との資料のやりとりは「ファックス」が殆どでしたので、ビジネスデータのデジタル化において、会計士として何が必要か?という問いかけを無意識のうちに繰りかえしていました。鈴木先生はどのようなシーンで当社のサービスをご利用いただいていますか?

鈴木: お客様との監査契約やアドバイザリー契約の締結時にpaperlogic電子契約を利用しています。また、監査手続においてもpaperlogic電子稟議・電子書庫を利用し、データセキュリティが担保された環境で監査業務の効率化を実現していくつもりです。

法人内の情報伝達・共有・承認には電子稟議(電子ワークフロー)、法人間の様々な取引には電子契約を活用します。そしてそれらの成果物たるデジタルデータは適切に作成され保存されることが必要ですが、ペーパーロジックの基本コンセプトは、会計士視点で取引ならびにデータの真正性を担保するための法的要件を満たすようサービス設計されており、まさに「痒いところにしっかり手が行き届いている」と感じています。

電子契約の浸透と課題

横山: お褒めいただき恐縮です。ところで、昨今、With新型コロナで脱ハンコの流れも加速していますが、電子契約の締結において、お客様の反応はどうですか?

鈴木: はい、当監査法人のお客様は、総じてITリテラシーが高い若い経営者のベンチャー企業が多いので、抵抗は全くと言っていいほどないです。逆に「当社側も電子契約サービスを導入しているので、こちらで導入しているサービスでも電子契約できますよ」と言われるほどです。

ただ、そういったお客様と接していて感じるのは、使い勝手を重視するのはもちろんですが、「取引や書類の真正性」に関してもっと気を付けた方がいいのではないか、ということです。そこは紙とハンコの関係と同じですね。

そのため、お客様と監査契約、アドバイザリー契約と言った重要な契約を行う際には、paperlogic電子契約のPKI(Public Key Infrastructure)基盤に基づく電子証明書を活用した(紙の実印同等の)電子契約で締結してもらっています。お客様へ今までの「ハンコ」の持つ意義を交えながら、電子契約のスペックの違いについてもレクチャーしております。

今後はpaperlogic電子稟議・電子書庫を活用し、監査手続の効率化、引いてはお客様である被監査会社の業務効率化を進めていきたいと思っています。デジタル化によってもたらされる効率化により「IPO難民」問題を解決するのも当監査法人の存在意義でありますし。

デジタル化の流れは今後、不可逆的に進んでいくと述べる鈴木氏

IPOをターゲットにするベンチャー企業や上場企業のDX

横山: ESネクスト監査法人様はDXによる次世代の監査を基軸におかれていますね。鈴木さんはホームページ上でも「デジタルがプラットフォームとなるポストコロナの新時代においては、企業は、柔軟な働き方を前提に、経営のスピード感や管理部門の効率化が必要となり、紙の書類から脱却してデジタル化を進めることとなります。これにともない、内部統制やガバナンスも、高いセキュリティを前提としたデジタル化が主流となってきます。当監査法人では、このようなデジタル環境下での高度な監査体制を目指す」とおっしゃっていますね。

鈴木: はい、先ほども申し上げたようにデジタル化の流れは今後、不可逆的に進んでいきます。ただ、日本はこの分野で他国と比して大きく出遅れており、取り組むべきことは数多く存在します。今回の新型コロナに起因して、ハンコと紙を多用してきたワークスタイルがテレワークの足かせになり一気にデジタル化の流れが加速しています。

市場を見渡すと、使い勝手の良さや業務効率化ばかりを重視したサービスも見受けられますが、特に上場企業や上場を目指す会社においては、「書類のデジタル化」にとどまらず、「業務プロセスのデジタル化」ならびに「ガバナンス・内部統制のデジタル化」を同時に進めていくことがポイントになると考えています。

横山: 昨今の「脱ハンコ」、「ペーパーレス化」の加速は良い方向であると考えますが、当社はハンコの持っていた意義、言うなれば、内部統制のデジタル化も実現できればと考えてサービス設計・開発に取り組んでいます。

内部統制のデジタル化

鈴木: 特に会計監査を受ける企業においては、内部統制の整備・運用は重要です。取引情報が「適切に」作成され、授受・承認・保管されているかということを記録し、検証できるようにする必要があります。先程も申し上げましたように、例えば契約締結行為が「本当に契約当事者が承認しているのか」ということが記録として残り、確認できるかが大前提になるということです。

金額的に重要なもの、合意の明確化が必要な契約締結においては、今までは印鑑登録済みの実印を求め、印鑑証明書の添付をしていたわけですが、デジタル化においてもその本質を実現しているサービスを利用すべきだと考えます。

現在、四大監査法人が残高証明書のデジタル化へ向けて共同でシステム運用に取り組んでいますが、システム利用にあたっては、電子メールアドレスを「どの組織の誰のものか」を厳重に確認して登録する手続きがあります。そのような措置がなければ、会計監査において未確認のメールアドレスのみの電子署名で作成・承認された書類では、監査証跡にならないと監査法人は判断しています。

一方で、ハンコ、特に実印の役割をデジタルで実現している、つまり本人確認手続きを経て発行されるPKI電子証明書の利用ができるpaperlogic電子契約は、会計士として安心して使うことができるツールだと考えています。さらに電子証明書がまだあまり使われていない現状において、相手先の発行までも画面上で申請・取得できる仕組みは非常に便利ですね。

paperlogic電子稟議においても、システムログだけでなく、承認者の本人確認のためのPKI電子署名とタイムスタンプを稟議書などに添付するデジタルデータへ付与し、かつ稟議の過程、結果においても署名とタイムスタンプを付すといった厳格な証跡を残すサービスは、業務プロセスの真正性の担保という意味合いで、会計監査人にとってはありがたい仕組みだと感じています。

横山: はい、当社はまさにそうした視点で電子稟議、電子契約そして電子書庫のベースに独自開発の電子認証基盤を備え、あらゆる法令に準拠するデジタル化を実現しようとしています。ご評価いただけてありがたいです。

DX化における会計監査の留意ポイント

監査基準・指針~DX化における会計監査の留意ポイント

横山: デジタル化関連の法令、なんと我が国には300近く存在していますが、会計監査の拠り所となる監査基準や指針においてもデジタル化関連のものが増えていますね。

鈴木: 電子認証基盤に関連するところでは日本公認会計士協会のIT委員会研究報告50号ですね。言うなれば、税務要件上、テクノロジー的には認定事業者のタイムスタンプで請求書等の取引関連書類の紙を廃棄できるが、監査意見を表明する上では改ざん性の排除のみでは足りず、「誰がその取引を承認した」という内部統制上の観点も重要であり、例えば、PKI電子証明書の活用も一例という視点は会計士的には至極納得する点です。その辺りも意識されてpaperlogic電子認証基盤は作られていますね?

横山: はい、おっしゃる通りです。先程の電子契約でもそうですが、「誰が」という本人性は監査上、とても重要な観点ですからね。いや、監査以外でも重要ですね。

ところで、平成27年度税制改正におけるスキャナ保存制度の取り扱いに関する監査人の留意事項も当社ユーザからの質問の多い事項ではありますが、個人的には、今後益々増えて行くであろう電子商取引に関する、電子帳簿保存法第10条「電子取引に係る電磁的記録の保存義務」が監査上も重要になっていくと思いますがいかがですか?

電子取引に対する監査

鈴木: 会社間の取引では、電子での契約締結、請求書や見積書のデジタル送付、受発注のデジタル化など、今後は電子商取引がメインになっていきますね。監査上の重要ポイントは「本人性」、「改ざん余地の排除」です。改ざん性の排除はある種、タイムスタンプのテクノロジーでOKとはいえ、取引の相手方の本人性は当該取引の重要性を鑑みてPKI電子証明書を活用するとか、請求書であれば来年度法制度化される「企業証明(eシール)」を活用するなど、強弱をつけたデジタル化が必要になってきます。EY新日本監査法人でも横山さんの勉強会のおかげで、単にPDF化されただけのデジタル請求書は、監査証跡にならなくなりました。

電子契約に関して、実際に不正取引が出始めているようですよ。契約数に応じてインセンティブ報酬が計算される営業の会社のようです。紙とハンコの場合、不正のハードルは一定の高さがありますが、デジタルでは手元のスマホで架空の契約データを作成、架空のメールアドレスで電子契約を締結し、成約数に数えて報告できてしまいます。本人確認を経たPKI電子証明書による電子契約では不可能な不正です。やはり強弱が必要です。

ただここで怖いのは、ITリテラシーの低い会計士だと「だからデジタルはダメなんだ」になってしまいます。きちんと強弱をつけたデジタル化を理解して対処していくことが必要ですね。デジタル化が急速に進展する現状、会計監査人全体としてもっと世の中の流れに先んじて方針を打ち出していくべきです。ビジネスドキュメントのデジタル化は会計士が一番適している分野だと考えていますので。

横山: はい、私自身、会社内部での稟議、申請や会社間の取引関係書類のプロセスを川上から川下まで内部統制の運用状況を鑑みながらチェックしていましたので、その一連の流れがデジタル化に移行するにあたっては、法律も詳しく、かつビジネスドキュメントの生成過程を現場で見てきた会計士が適任だと私も感じています。

本日は長時間に渡りデジタル化の有意義な意見交換をありがとうございました。